うつ病物語 その76「うつ病とアコースティック・ギター」

うつ病物語

うつ病克服のために必要なもの

私がうつ病と本当の意味で向き合い、治療を続けていく中ではっきり分かったことがひとつある。それは、休養と投薬だけでは不十分だということである。勿論、休養を取ることは一番大事であるし、気持ちを引き上げる効果のある投薬も回復を後押ししてくれることは間違いない。

しかし、発症する前の自分に戻ったところで、復帰する職場は、私が病気を発症した時と大きく変らない。以前のままでは、再発の危険性が非常に高い。

何を始めようか…???

休養は取っている、ウォーキングも始めた、時間潰しの側面が強いが、中小企業診断士の勉強をボチボチ始めた…、あとひとつ、生涯の趣味になるような何かが欲しい。

このことは妻や義母からも勧められていた。割と得意なボーリングはどう?ダンスとかは?卓球は?…運動系が心身や健康に一番良いのは分かっていたが、私の性質上、これらを好きになって楽しく続けられるとは思えない。一応の趣味として料理はあるが、もうひとつ何か別の世界に触れるものがいい…、私はしばらくの間、ぼんやり考えた。

ふと浮かんだのは、前に見た新聞広告だった。

アコースティック・ギターを始める

それは、定期講座の紹介ページだったのだが、椅子に腰かけてギターを構えている男性の写真に私の目が留まる。

…あれ?これって高校ん時の〇〇じゃないか???

講師の名前を見て確信する。そう、高校の時の同級生で、当時からギターが飛びぬけて上手かった〇〇であった。

この時は、ああ、本当にギターで生計を立てているんだ、やっぱり凄いな、と尊敬と羨ましさを同時に感じたのだが、そのことが、生涯の趣味を探していた私の脳裏に、ふっと浮かんできたのである。ギターには、昔から憧れがあった。よし、やってみよう。妻にそのことを話すと、二つ返事で喜んでくれた。何を始めるにもお金はかかる。経済的に苦しい局面なのに、精一杯の妻の気持ちに心から感謝するのだった。

25年振りに再会

早速出向き、申し込みを窓口で済ませると、正式な申し込み前に、見学してはどうかと勧められたので従うことにした。後日、指定された時間で講師が来るのを待つ。先生である同級生は、まだ来ていないらしい。

何しろ、卒業後は、彼がカラオケボックスでバイトをしている時に偶然会って話をして以来である。20歳を少し過ぎた頃だったと思うが、その時の会話は鮮明に覚えている。「ギターで食っていこうと思ってさ」と軽く言う彼の言葉に、高校生時の担任に勧められて入った会社で文句を言いながら、ただ言われた仕事をしていた自分は、彼への憧れとともに、妙な気恥ずかしさを覚えたのだった。

そんなことを思い出しているうちに、講師の先生が現れた。

講師「初めまして、講師の〇〇です。えーっと、これから…」

私「あ、いや、あのさ、覚えてる?同じ高校だった〇〇です。」

講師「え?…んん?あ、えっ!いやいや、久し振りだね~!」

そりゃ歳は取っていたが、雰囲気は当時のままの〇〇だった。流石ギターの先生、と変な感心の仕方をする私。久し振りの再会で妙な緊張感もあるが、〇〇は、こんなことを言ってきた。

講師「いや、でも勇気あるよね。」

私「え?」

講師「や、俺はもう30年以上ギター触ってきた人間だからアレだけど、よく飛び込んできたね。これは勇気がいることだと思う。」

私「え?そうかな…?ああ…、うん、そうかもね。いや、実はさ…。」

私は、自分がうつ病を患って休職しており、ギターを始めようと思った経緯についてざっと話をした。彼は、ギターの世界に触れることは、きっと私のメンタルに良い影響を与えるはずだと力強く言い切ってくれた。私は自分の行動を認めてもらったみたいで嬉しかった。

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