うつ病物語 その181「うつ病経験のある管理職と回復途上の部下+充実期の部下」

うつ病休職から復帰した部下J

一ヶ月半の休職明けから職場復帰したJは中途入社だが、プロパー叩き上げの係長で現場全体を取り仕切っているYと同い年だった。

前職場で一緒だった彼らは気が合い、Jは気さくに振舞いながら仕事をバリバリこなすYに敬意を持ち、YはYで、目の前の仕事に対して誠実なJのことを信頼していた。

夜勤シフトの責任者になっている私としては、Jは戦力としては考えず、休職明けからのリハビリ場所として、余計な人と会うことのない夜勤でのんびりと過ごしてほしかった。そう考えているのはYも同様であり、Jの様子を伺いつつの一週間はあっという間に過ぎた。

Jは、職場の皆の受け入れ方が非常に良かったこともあり、思ったよりも早く職場の面々に馴染み、「職場に新人さんが居る」という違和感は直ぐに消え、Yと談笑しているような姿も増えていた。

Yからは「Jはさ、(このまま放っておいても)もう大丈夫なんじゃない?」という言葉をかけられ、私も「そうだね、まあウチラが居るんだし、順調にいくんじゃないか?」と返す。

Y以外の面々も、病み上がりのJに対してそう感じつつあったし、職場への影響力が大きいYが、『Jはもう大丈夫』と思うことで、更にその印象が大きくなっていく。

私は、ちょっとマズイな、と思った。

うつ病回復期にある部下を持つ管理職の心構え

普通、職場にはうつ病の経験者なんてそんなに居ない。そのため、世間の誤解が非常に多い『うつ病のリアル』を正しく知っている人もまた少ないのが現実だ。

うつ病になってしまった部下や同僚を受け入れる側が真心を持って迎えて、いいスタートを切ったように見えても油断してはいけない…、そこまで注意している慎重な管理者や同僚だとしても、具体的な管理ポイントが何なのかを見極めるのは、うつ病の未経験者には極めて困難だ。

私は自分の時のことを思い出し、工場の片隅にJを呼んだ。

私「…ひとまず順調みたいで良かったんだけど、ひとつ、伝えて置きたいことがあるんだよね」

J「はい、何でしょうか…?」

私「JはYを頼って、この職場にはYや私が居るから、最後の気持ちで異動してきたと言っていたよな。Yは勿論、Jのことを気に掛けているし、今後も目を配ると思う。Y自身も、莫大な仕事を抱えて非常に辛い時期を過ごして、円形脱毛症になったり、よく眠れない時期もあったようだから、そういう意味で、Jの辛かった出来事に共感しているんだけど…」

Jは真剣な表情で聴いている。

私「でも、Yはうつ病になった訳じゃないんだ。…だから、本当の意味でJのことを理解してはあげられないと思う。そこは経験者の俺達とは違うんだよ。だからYは、何かの会話の弾みで『こなせるかどうかは結局やる気の問題』とか『最後は気持ちなんだよね』等で結論付ける台詞が出てくるかもしれない。その時、Jとしては心を痛めると思う。『ああ、やっぱりこう思われるのか』とね、でもそれが未経験者の限界だと思う。ただ私は、経験者だからそういうことが良く分かるから、Yからそういう言葉があったとしても、私は分かっているから」

J「…あ、はい、あの、職場にこういうことを分かって頂ける方が居るのは、本当に心強いです」

Jは、まだ緊張の面持ちであったが、こう言って微笑んだ。

 

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