佐々木倫子「動物のお医者さん」

過去にもこの先にも、マズ無いであろうの舞台!

1987年から1993年にかけて、隔週発刊の少女漫画雑誌「花とゆめ」に連載された、佐々木倫子の漫画。

佐々木倫子は、北海道旭川市出身で、少女漫画を作品発表の場としながらも、「ペパミント・スパイ」や「おたんこナース」など、恋愛要素が希薄なコメディをメインに、一風変わったキャラ達が淡々と活躍する作風が持ち味の、かなり個性的な漫画家だ。

この「動物のお医者さん」は、結果的に獣医を目指すことになる大学生を主人公に、取り巻く愉快な友人や先輩達、また人間味溢れる大学教授達とのキャンパスライフをコメディタッチで描いた作品である。

先ず、「獣医」というマニアックな職業を目指す北海道のH大(北海道大学)を舞台にしたところも珍しいし、キレイめの女性は何人か登場するものの恋愛要素は皆無なところが、通常の女性向け漫画とは一線を画しており、影の主役といえる動物の描写も、面白さとリアルさの境界線を行ったり来たりしたようないい塩梅で表現した点も非常にポイントが高い。一般層もマニア層も関係なく、世代を超えて老若男女にお勧めできる、とても面白い漫画だ。

主人公は…誰?

この漫画の主人公は、先に説明したように、獣医を目指すことになる男子大学生の西根公輝(愛称:ハムテル)であり、親友でありネズミが超苦手な二階堂や、特異体質の先輩女性である菱沼などが大抵は物語の主役を張るが、真の主人公は他に居る。

そう、ハムテル達を常に振り回す自由奔放人で極めて破天荒だが、たまに人生の手解きをする師匠、教授の漆原と、それとは対照的な優等生で極めて常識的な人物だが、漆原とは腐れ縁が続いている教授、菅原である。

二人の教授は、作中にエピソードも豊富に掲載されており、適度にリアルな獣医学部の舞台を壊さない程度にアホな振る舞いをしつつも、一応は常識的な役割を演じており、この作品に登場する数少ない”大人”として、話に奥行きを持たせている。

そしてもうひとりの主人公は動物達である。獣医学部が舞台なだけに、多種多様な動物達が登場するが、特に主人公の飼い犬であるシベリアンハスキーのチョビは、劇中でも屈指の可愛らしさというかいじらしさで、読者のペット欲を掻き立てられる。

漫画はこうでありたい…!

この漫画がヒットした当時、北海道大学の獣医学部への希望者が殺到するとともに、シベリアンハスキーの人気が爆発したが、「こんな先生(教授)がいるなら入学してみたい!」「こんな犬、飼ってみたい!」と多くの人が夢を見た、…いや、夢を見せてもらった漫画だった。

こんな学校があったら最高!こういうペットと暮らしてみたい…。漫画やドラマを通じて、一般人にそう思わせることは非常に難しいと思う。劇中があんまり嘘くさくても白けるし、かと言ってリアル過ぎてもエンタメ性を損なう。

この漫画はそういう意味で、抜群のサジ加減だった。決して爆笑したり、感動したりする漫画ではないが、しみじみと「ああ、いいなあ」と思わされる漫画である。

 

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