波乱万丈の芸能史
1985年リリース、本田美奈子4枚目のシングル。
本田美奈子は1985年にデビュー、同期には、後のアイドル四天王の中山美穂、南野陽子、斉藤由貴、浅香唯の他、森川美穂や森口博子、大西結花やおニャン子クラブなどもいる、何とも賑々しい顔ぶれで凄い当たり年だった。
しかし、本田美奈子はこの錚々たるメンツの中から新人賞を獲得、今回紹介する「Temptation(誘惑)」もヒットさせ、このまま黄金ロードを歩んでいくかと思われた。
が、翌年、「1986年のマリリン」で、あろうことかヘソ出し衣装、しかも「マリリン」という、暴走したとしか思えない凄い演出で話題をさらったものの、王道からは大きく外れた色物アイドルになってしまう。
その後も、ロックバンドを結成したり、女性ロッカーの元祖SHOW-YAのライブに出演したりしたかと思えば、ミュージカルのオーディションを受けてヒロイン役を射止めるなど、迷活躍を続ける。
そのミュージカルでは実績を上げ、ついに自身のフィールドが定まり波乱の芸能人生も着地かと思われたが、なんと白血病を患ってしまい、2004年に38歳の若さでこの世を去ってしまった。
「Temptation(誘惑)」という曲
この曲は、作詞:松本隆、作曲:筒美京平という鉄壁の布陣で制作され、見事、日本レコード大賞の新人賞を受賞(最優秀新人賞は中山美穂「C」)。
聴いてみるとよく分かるが「Temptation(誘惑)」は鉄壁の布陣がガチで製作した、とても完成度の高い完璧な歌謡曲だ。
しかし、前述の通り本田美奈子はこういう曲の枠組みで収まるような女性シンガーではないため、既にこの「Temptation(誘惑)」でも、歌が上手すぎるというかコブシが回り過ぎの感があるが、この時は何とかギリギリのラインでセーフ。
私は、次作の「1986年のマリリン」も好きだが、やはり、聴いていて少し恥ずかしくなってしまう。一人でならいいが(ちゃんと聴きたいので)他に誰かいる時は困る…。
一般的な聴きやすさからいくと圧倒的に「Temptation(誘惑)」だ。
惜しまれる「Oneway Generation」路線…
本田美奈子には、1987年にリリースされた、後のプリンセス・プリンセスやリンドバーグ路線を先取りしたような「Oneway Generation」というヒット曲もある。
これは当時としては新鮮な路線で、田村正和が主演した「パパハニュースキャスター」の主題歌ということもあってヒット。もうアイドルという感じでは無かったその時の本田美奈子のイメージにも合っていた。
が、しかし、本田美奈子はこの道は意にそぐわないとばかりに、僅か2ヶ月後にイギリスのロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイが作詞作曲プロデュースした「CRAZY NIGHTS/GOLDEN DAYS」をリリース。また違う世界に行ってしまう。
後から振り返ると、ここが本田美奈子が日本のポップスシンガーとして確立する最後のチャンスだったが、本意ではないものは長続きするわけもなく仕方が無かったかもしれない。
私としては、「Temptation(誘惑)」の演歌歌謡から「Oneway Generation」までのポップスシンガーな本田美奈子をもっと見たかった。もし、病魔に打ち勝つことができていたら、今、本田美奈子はどんな歌を聴かせてくれただろうか?
その波乱に満ちた生涯は、一視聴者側からすると空回りして見えていた感は否めないが、どんな局面でも一生懸命で真っ直ぐな感じはテレビ画面から伝わっていた。
仕事と割り切り、余裕で営業スマイルをかますアイドルなんかより、グッと惹かれるアイドル歌手だった。