鳥山明「ドラゴンボール」

これぞ正真正銘の日本一の漫画!

「Dr.スランプ」で少年漫画界の新しい時代を切り開いた鳥山明が、その終了後に間髪入れずに連載を始めたのが、この、今や世界一有名な漫画と言っていい「ドラゴンボール」である。

主人公の「孫悟空」という名前からも分かる通り、連載当初は、西遊記を模したストーリーのギャグテイストな漫画であり、週間ジャンプ誌上でもせいぜいボチボチといった程度の人気だったが、ライバルとして登場したクリリンや、師匠となる亀仙人が絡んできてからはグッと面白くなり、天下一武道会へのくだり、その後の天津飯やピッコロ大魔王との闘いで人気が爆発。

更に、孫悟空に異星人(=サイヤ人)という設定が加わり、ベジータやフリーザが登場するようになってからは作品の雰囲気もガラッと変わり、当初の「ドラゴンボール」とはまるで違う漫画になってしまったが、その爽快感溢れるエンタメ性は、日本という土壌だけに止まらず、世界中に「かめはめ波」を輸出するお化け漫画となった。

路線変更はいつから…?

基本的にのほほんとしているドラゴンボールの世界。その呑気さは、完全なギャグ漫画である「Dr.スランプ」の舞台の「ペンギン村」とリンクすることも不自然じゃなかったくらいだったのだが、劇中の中盤から後半にかけては、たとえドラゴンボールの力で生き返るとは言え、メインキャラの死が続出するようなバトル漫画に変貌していた。

平和でお茶らけている前半も、それがほどよい塩梅の中盤も、そして衝撃のスーパーサイヤ人な後半もそれぞれ面白いので文句はないのだが、いったい何時から、ドラゴンボールは変化したのだろうか?

ボール集めより天下一武道会がメインとなった頃…?亀仙人や天津飯が命を懸けたピッコロ大魔王との闘い…?それとも孫悟空がサイヤ人「カカロット」であるとされた以降の激しいバトル…?

…いえいえ、皆さん、誰かを忘れていませんか?

私は、毎週の週刊ジャンプを楽しみにして読んでいたが、ドラゴンボールの転機を肌で感じたのは、今では殆どの読者が忘れているあのキャラ、そう「桃白白(タオパイパイ)」の登場である。

「タオパイパイ」というネーミングは、鳥山明ならではの笑いを誘う響きではあるが、そのキャラクターは、それまでのドラゴンボールの世界には全く似つかわしくない「殺し屋」で、描かれ方も、ビジュアルだけがちょっとユーモラスな他は、残虐で冷酷な本当の悪人だった。

その強さは圧倒的で、孫悟空が劇中で初めて完敗した相手であったが、その後、カリン様の修行でパワーアップした悟空には歯が立たず敗退、後日、サイボーグとなって再登場するが、弟子のような存在である天津飯相手に見せ場もないままやられ、呆気なく物語から消える。

全42巻におよぶドラゴンボールの物語のなかで、桃白白が活躍したシーンは、ほんの僅かな一部に過ぎないが、私には、このキャラの登場を契機として、「ドラゴンボール」という作品は、変質していったように思っている。

圧倒的な絵の上手さ!

ま、マイナーキャラである桃白白はともかく、「ドラゴンボール」は、とてもいい意味で、こんなに中身がないにも関わらず、何度も夢中になって読んでしまう稀有な漫画だ。

この大人気漫画には、長編作品ならではの伏線を回収する妙味とか、予想の斜め上をいくような衝撃的な展開にハラハラするとか、読者の人生観にちょっとした刺激を与えてくるとか、そういった大人というか漫画の玄人?を唸らせるような要素はハッキリ言って無い。

…ただただ、鳥山明の圧倒的な絵の上手さがあるだけなのだ。そして、それのみが、この「ドラゴンボール」を何度も読ませる魅力に繋がっている(スイマセン、かなり極端に言い切っています)。

何といっても、数ある戦闘シーンの立体感や臨場感、空間の意識のさせ方やスピーディでメリハリのある見せ方は素晴らしいの一言で、その後、「鳥山明のドラゴンボール」をアニメや最新ゲームが如何に表現しようとも、未だに再現しきれていないと私は思っている。

「画」としての名場面は数限りなくあるが、名言の類は出て来ない、そんな物凄い漫画…!

しかも、その凄い戦闘シーンは、「孫悟空VSピッコロ」とか「孫悟空VSフリーザ」などの長編よりも、「ベジータVSギニュー特戦隊」とか、「孫悟飯VSセルジュニア」といった、ややマイナーな闘いでこそ、ギラっと光っているのである。

ジャンプ系で言えば、こと戦闘シーンの描写において、「ONE PIECE」や「NARUTO」も独自の味で頑張ってはいるが、どう控えめに見ても、鳥山明のドラゴンボールの足元にも及んでいない。

「ハアッ!」とか「だあっ!」とか「うおおおお!」だけで、カッコいい台詞回しや蘊蓄を必要としない、卓越した絵の上手さだけの戦闘シーンで、読者を魅せて酔わせる「ドラゴンボール」。

こんな漫画は、未来永劫、現われないに違いない。

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