吉田秋生「BANANA FISH」

少女漫画界の異端児かつ最高傑作!

世の中に「名作」と呼ばれる漫画作品は数あれど、「BANANA FISH」はその骨太なストーリー展開、主人公「アッシュ」を始めとするキャラクター造形の魅力、シャープで繊細な絵柄、それらが抜群にマッチした傑作中の傑作である。

この「BANANA FISH」という漫画の舞台は、アメリカのロサンゼルス。主人公は「アッシュ・リンクス」という通り名のストリートキッズのボスで、類まれな知性とSWAT並みのガン・シューティングテクニックを持ち、護身術にも長け、政治経済の分野からワインまでと教養全般も豊富、更にモデルと見間違うほどの長身小顔のイケメン…。

このように、現実にはまずいそうもないパーフェクトなスペックを誇るアッシュであるが、実は、幼い頃に性的被害にあい、また、アッシュに異常な執着を示すマフィアのボス、「ディノ・ゴルツィネ」の経営する高級クラブの”商品”として、辛酸をなめながら、幹部にまで這い上がってきた苦労の人なのである。

氷の表情をまといながら、殺伐とした世界を生き抜いてきたアッシュだったが、ちょっとした切っ掛けから、日本から渡米してきた「奥村英二」と出会う。変な日本人だな、と不思議な親近感を持ったアッシュだったが、「BANANA FISH」の鍵を握るアッシュを追い詰めるゴルツィネとの闘いの中で、否応なしに行動を共にすることになる。

そしてアッシュは、古くからの仲間である「ショーター」や、兄の友人である「マックス」らとともに、アッシュに敵対するグループやゴルツィネの追手を振り切りながら、兄の死因となった「BANANA FISH」の謎に迫っていく。

いつしかアッシュは、「男娼上がりの殺人鬼」と卑下している自分のことを全く恐れず、また一切の軽蔑もせず、あくまで同世代の友人として接してくる英二に、この上ない友情と、愛情を感じるようになり、一方で、アッシュの内面にある苦悩を癒したいと思うようなった英二は、互いに唯一無二の関係になっていくのだった…。

BANANA FISHの魅力

この漫画は、女性向け漫画にカテゴリーされる作品でありながら、作中に女性キャラクターは殆ど登場せず、ほぼ男性キャラクターのみで話が展開される。一方ではBLのハシリとも言われるが、作中において恋愛要素はゼロといってよく、エンターテイメント性も高くはない。あくまで淡々と、俯瞰したカメラ位置から、実に魅力的な主人公「アッシュ・リンクス」に、「奥村英二」をはじめとした様々なキャラが絡み、彼の生き様を丁寧に追う見せ方になっている。

少女漫画や少年漫画とはノリが大きく異なるが、かといって青年漫画かというと、その枠組みにも収まらない、独特の雰囲気を持っている。しかし、どこか説教臭かったり、話が難解かというと、全くそんなこともなく、スラスラと読め、とにかく続きが気になって仕方が無くなる作品である。私もこの歳になるまで色々な漫画を読んだが、「BANANA FISH」みたいな漫画、というものには出会ったことがない。

私は、多くの青少年諸君がそうであったように、「北斗の拳」や「Drスランプ」で爆発的な人気を誇った週間少年ジャンプから、色んな漫画作品に触れていったが、この「BANANA FISH」に出会ったのは高校生の時で、同級生の女子に借りたのが切っ掛けだった。冒頭からのくだりはややとっつきにくいが、読み進めて直ぐに「こんな漫画が世の中にあったんだ!」と感銘を受けた記憶がある。

実は、この作品のラストシーンには賛否が分かれているが、私には、例えどのような結末であっても、この漫画には全く不満を感じない。蛇足感も駆け足感もなく、実に美しく、物語はフィナーレを迎える。このように、読後、じっと余韻に浸ることのできる稀有な作品に、ケチをつけるのは野暮である。

ま、当時の私、精神的に大人な女子高生と違い、まだまだ単細胞な男子高校生には、「BANANA FISH」が提示するステージは大人過ぎたが、憧れに近い吸引力で、私を夢中にさせてくれた漫画だった。

その名作が、この21世紀に満を持して、アニメ化されるようである。期待半分、不安半分ではあるが、放映されるその日まで、単行本を読み直しておこう。

 

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