カラオケで浜田省吾を知る
1984年リリース、浜田省吾の9枚目のアルバム「DOWN BY THE MAINSTREET」の1曲目。
恋愛や日常、また世の中の不条理や憤りを詩にした歌は数あれど、この曲のタイトルは「MONEY」。そう、「お金」である。私は、お金のことをダイレクトに叫んだ歌というものに出会ったのは、この浜田省吾の「MONEY」しかないが、皆さんはどうだろうか?
初めてこの曲を知ったのは、まだ二十代の頃、職場の連中と雪崩れ込んだカラオケボックスだった。その時のメンバーは、全員20代前半で、7~8人だったろうか?その半分くらいは女性だった。
「さー、次は〇〇さんの番ですよ!」
「お~!…じゃ、これで!」
と、女性陣に乗せられてカラオケのセットをする後輩。私は、この後輩とは何度も酒を飲んだことがあったが、カラオケは初めてだったのかもしれない。「あ、コイツは一体、何を歌うんだろうな?」と、酔った頭で思った記憶が残っている。
私の2歳下の後輩が、酔った勢いのままにカラオケのリモコンにセットしたのは、この「MONEY」だった。
間もなくイントロが流れ、そのノリノリな感じに皆は安心して乗っかっていった…はずなのだが、この「MONEY」は、そんなヌルイ曲では無かった。
「MONEY」 作詞・作曲:浜田省吾
この町のメインストリート 僅か数百メートル
さびれた映画館とバーが5~6軒
ハイスクール出た奴らは 次の朝バックをかかえて出ていく
兄貴は消えちまった親父のかわりに 油にまみれて俺を育てた
奴は自分の夢 俺に背負わせて 心をごまかしてるのさ
Money Money makes him crazy
Money Money changes everything
いつか奴らの 足元にBIG MONEY
叩きつけてやる
実に脂っこくパンチの効いた詩
中々にダイレクトかつ力強い詩である。この詩からイメージされる情景は、日本の、というよりはアメリカの片田舎かなにかを連想させるが、私が生まれ育った北海道の地も、大して変わらない。
私の住む街は、メインストリートが数百メートルとか、バーが5~6軒というほどの田舎町ではないが、この「MONEY」の詩は、田舎生まれの田舎育ちであり、温かったが決して裕福とは言えない家庭で育った私の琴線を大きく刺激した。
しかし、若い女性達が半数を占めていたこのカラオケの場では、全く、猛烈に、そして実に、合わない歌であった。
先程までの、恋愛メインの軽いノリの歌ばかりが流れていた空間に、この浜田省吾の「MONEY」はあまりに骨太すぎたのである。
私は、この曲の無骨なパワーに既に引き込まれていたが、周囲を見渡すと、見事なドン引き状態。また後輩が熱く歌ったものだから、余計にこの「MONEY」のガツガツとした執念のような歌詞が引き立ってしまった。
カラオケが終わった後の後輩女性の一言。
「…なんかスゴイ歌ですね。」
私は可笑しくて仕方が無かったが、後輩は、次の曲には軽い歌をチョイスしていたので、きっと、失敗したと感じ、軌道修正をしたのだろう。
この「MONEY」は、詩の全編について暑苦しいのだが、何より強烈なのは、最後の「いつか奴らの足元に BIG MONEY 叩きつけてやる」である。
「100万ドル」とか「札束」といった表現ではなく、「BIG MONEY」。バタ臭い表現だが、これは、この曲のイメージの輪郭をクッキリとさせるのに一役買っていると思う。金額はどうでもいいのだ。とにかく、奴らに「BIG MONEY」を叩きつけるのである。よく分からないが、なんだかカッコいいじゃないか!
…ま、そんなエピソードが、この「MONEY」を知った切っ掛けだったが、私が、決して好みではないシンガーソングライターである浜田省吾という存在を認めざるを得ず、そして心をグッと掴まれた曲だった。