地上波映画枠があった時代

レンタルからネット配信へと移行した現代と違い、昭和の時代には、金曜ロードショーとか、日曜洋画劇場といった、特番ではなく、21:00 ~23:00の準ゴールデンタイムに毎週放送するテレビ映画枠というものが各局にあった。

大抵は「ダーティ・ハリー」とか「13日の金曜日」とか、「ホーム・アローン」といった、洋画の人気作の吹き替え版が放送されていたのだが、たまにアニメ映画を放送することがあった。

次週予告で「あしたのジョー」とか「宇宙戦艦ヤマト」などが紹介された日には、小学生だった私も弟も、次の一週間が待ち遠しくて仕方がなかったのを思い出す。

洋画でもそうだが、人気があるせいなのか版権の絡みなのか分からないが、「またこれかい!」と言いたくなるほどに、なぜか何度も何度も繰り返し放送される作品というものがあり、特にアニメ映画ではその傾向が強かったと思う。

不思議だが、80年代には社会現象になるほどに人気があった「機動戦士ガンダム」とか「うる星やつら」なんかは、テレビシリーズの再放送はあっても映画のテレビ放送となると、一度か二度だったんじゃないかと思うほどに少なかった。

そんな中、「またコレかよ、どんだけ再放送するんだよ!」と思いつつも、見ると、やっぱり面白いな~と心から楽しんでしまうのが「ルパン三世」の劇場版だった。

他のアニメには無い立ち位置を確立した「ルパン三世」

北海道出身の漫画家、モンキー・パンチ原作の連載漫画をアニメ化したシリーズで、今なお日本国民の殆ど全てが知っているレベルの知名度。

現役度と勤続年数(?)を含めて考えると「サザエさん」や「ドラえもん」と勝負できるレベルの別格アニメだ。

ルパン三世は、2020年の現代でも現役といっていいほどの人気があり、最近まで新シリーズとか2時間枠のテレビスペシャルが定期的に作られているが、数ある作品中でも群を抜いて面白いのは、やはり40年以上前に劇場公開された「カリオストロの城」と「ルパンVS複製人間」の2作品だ。

知名度は、ジブリシリーズで有名な宮崎駿監督ということで「カリオストロの城」の方に軍配が上がるが、映画としての面白さに関しては本当に甲乙つけがたい。ルパン三世ファン100名にどちらか選ばせても、結果は拮抗すると思う。

でも私は、完全に「ルパンVS複製人間」の方が好みだ(勿論、『カリオストロの城』も滅茶苦茶とんでもなく面白い)。もうここまで面白いと出来の優劣ではなく、個人の好みしかない。

名言や名場面だらけの「ルパンVS複製人間」

名作には、当たり前だけど名場面とか名言がたくさん登場するが、この「ルパンVS複製人間」には、後のルパン映画が真似できない逸品がゾロゾロと出てくる。

次元「それがオマエさんの言う民主主義かい!けっ…長げえとこモンローとハンフリー・ボガードのファンだったが…、今日限りだ!」

五右衛門「またつまらぬものを斬ったか…」※後の定番台詞が初登場

最後の対決に向かうルパンを止める次元に対してのルパン「実際クラシックだよ、お前ってやつは」

銭形警部「ルパンという人間が居る限り、私は日夜永遠に追い続ける必要があるのだよ!」

不二子「だって、おじいちゃんになったルパンなんて見たくないもの」

この「ルパンVS複製人間」は、ルパンに絡むヒロインはおろか、不二子以外の女性キャラが一切登場しない。映画オリジナルの強敵「マモー」達以外は、レギュラー陣だけで話が展開される。

しかも、ルパン一味の関係がドライで、おちゃらけていたり飄々としたシーンがあっても、基本ダークサイドの住人達として描いているのが、カリオストロ以降のルパンと大きく違うところ。

だから、「アジト」なんていう泥棒用語も、凄く真実味がありしっくりくる。後のルパンだと、「アジト」と言っても「秘密基地」みたいな印象だが、この映画では「悪党達の隠れ家」なのだ。

全編に渡って、アダルティかつ乾いた感じで進行していくが、ルパン達も視聴者も、正体不明の超大物(マモー)を敵に回しているザワザワ感が半端ない。
「奴が“神”だとは言わねえ、だが俺達には適いっこねえ化け物なんだぞ!」
という次元の弱気なセリフも納得。

余談になるが、次元大介は、相当カッコいいキャラには違いないが、このセリフにある通り、決して大物ではない。

銃が抜群に上手いだけの、ただの職人(専門バカ)なのだ。ルパンみたいに全世界に影響を与えたり、正体不明の超大物にもひるまずに向かっていくタイプではない(それがまた庶民的でイイのだけれども)。

ルパンにしても、後にやり尽くされたヒロインを助ける善人役ではなく、紛れもなく自分自身のために、正体不明の超強敵に真っ向勝負するのがたまらなくいい映画だ。

なのに最後は『ルパン音頭』!?

当時は正にSF映画ネタでしかなかったクローン技術をメインに据えた重厚な映画だったのに、なんと最後は、三波春夫が歌う能天気な『ルパン音頭』で終わる。

そんな重たいストーリーで活躍したルパン一味だが、本来の彼らはもっと飄々として軽いノリなのが魅力。それを視聴者に再確認させるために、あえて『ルパン音頭』にしたのだと私は思う。

今なら、色々な理由から、この映画のEDにはカッチョいい流行のロックサウンドとかが流れるハズ。でも、三波春夫の『ルパン音頭』であることが最高だし、だからこそ私達の心をグッと掴んだ映画なのだ。

これはきっと、作り手に絶対の自信と、それ故の遊び心があったからに他ならない。

 

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