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中小企業の総務部は色んな仕事をする
これは、私が”うつ病”を自覚して初めて心療内科に診てもらう1年ほど前の話…。
私の勤め先は中小企業なので、製造や販売、施設管理や品質管理を除いた全ての管理業務は「総務部」が管轄していた。管理系の仕事には、総務、労務、経理、税務、財務、庶務、システム管理…、とあるが、とにかく中小企業の総務部というものは、分類できないことの全てを扱うことになる”何でも屋”だ。それらを、管理職3名と課員5名の8名で切り盛りしていた。
課員は皆20歳代で若く、経験不足のため任せられる仕事の範囲は狭かった。管理職は、ベテランの上司Aと私に加え、長年の営業職から異動になって間がない上司Bの3名。主な分担は、上司Aが労務、上司Bは財務中心に経理のサブ、私は経理及び税務とシステム管理、…なのだが、総務や庶務案件については、3名で連携して適宜対応する、という体制だった。
ショーケースの至急リニューアルを指示
ある時、年度見通しと予算策定に追われ、早出に残業+休日出勤の毎日が続いていた私のところに、役員Aがやってきて、こんなことを指示してきた。
役員A「なあ〇〇、正面玄関にあるショーケースな、もうかなり古いし、会社の現状や今後の方向性にマッチしていないから、早急にリニューアルしてくれ。」
私「ハイ、分かりました。…あの、急ぎですよね?」
役員A「ああ、年度内に済ませたい。今期は結構いい決算数字になるから、今期の経費になるように進めてくれ。」
今は1月末。直ぐに年度見通しを出さなければならない上、並行作業で進める予算は2月中旬に提出、その後は修正予算から本決算に繋げつつ、総務的には辞令交付などの新年度に向けた準備、ライン課長としては新年度の業務分担の素案作り…。
と、色々なことを考えると、ショーケースのリニューアルに割く余裕は全然無かったのだが、私の口から、上司Aや上司Bにこれを振ることは出来なかった。
人員構成の歪からくる曖昧な業務分担とアンバランスさ
今回のショーケースのリニューアルのような仕事は、誰が担当するという区分はなくグレーな業務であった。よって、役員Aから言われた相手が担当になってしまう。
本当なら、今は忙しい経理方面にノータッチで余力のある上司Aがやってくれるといいのだが、役員Aの性格的にこういう仕事が一番気苦労が多く難航必至であり、仮に引き受けてくれるよう相談したところで、上司Aが聞き入れてくれる可能性はゼロだった。
また、上司Bは、私の指示を受けながら予算策定の手伝いをやってもらっている状態であったし、面倒事になることが明らかな業務を、総務部に来て間もない人に振るのも憚られた。
後は部下に振るしかないが、部下は全員20歳過ぎから半ばで、この仕事を振るには全くの経験不足のため全面的なサポートが必要だった。
私は仕方なく諦めて自分がやることにした。他にやることは山ほどあったが、役員がやれというのなら、管理職はやらなくてはならない。
広告関連の業者を呼んで打ち合わせをし、全面刷新の場合と、既存ベースの手直しの2パターンのイメージ画像を作ってもらう。全面刷新だとかなりの費用、手直しでもソコソコかかることが分かった。役員Aの反応を考えると揉めそうだが、既に2月に入っていた。年度内納品に向けてのリミットはそう遠くない。私は、概算見積もりとイメージ図を持って役員Aの反応を伺う。
役員A「う~ん…、全面刷新は高いな、ダメだ。こっちの手直しでいいんじゃないか?」
実は私もそう考えていた。全面刷新でなくても、かなりイメージは変わるし、費用を抑えつつも古臭い感じが払拭される内容だった。
私「はい、私もそちらが良いのではと思っていました。では、こちらで進めていきます。」
役員A「うん、分かった。」
その後、詳細の詰めの段階で幾つかの確認と承諾を役員Aからもらい、私は最終確認をした。
私「では、この内容と見積もり金額で発注を掛けて宜しいでしょうか?」
役員A「ああ。」
役員Aの反応が今一つだったのが気にはなったが、既に2月の中旬に入っており、もうリミットだった。業者側はギリギリの受注タイミングだったが、「大丈夫です。年度内納品で何とかします。」と担当者は言ってくれた。
ああ、この件はひとまず終わったか、役員Aの妙な拘りも意外に無くて助かったな、何とかなりそうで良かった…。と、この時は思ったのだが…。
クレーマー上司、全開
発注を掛けてから1週間が経った頃、私と、何か別の打ち合わせをしていた役員Aが、思い出したかのようにこう言った。
役員A「おい〇〇、そういや、あのショーケースってどうなったんだ?」
私「え?あ、はい、先週確認して頂いたイメージ案の通りで依頼を済ませていますが…。」
役員A「ああ、ちょっとそのイメージ図をもう一度見せてくれ。」
マズイな…。この役員Aの反応パターンには今までも散々な目に合ってきた。私の中に、嫌な予感が急速に沸き起こる。
役員A「…う~ん、ダメだな。これじゃ前のと大して変わらないというか、結局はただのショーケースじゃないか。もっとこう、今の時代的な感じに出来ないのか?」
私「はい、そうなるとそもそものプランから練り直しになって、年度内では間に合いませんし、費用もこれの3倍で済まないと思います。…あの、先週確認して頂いた通り、このプランでもう発注済みなんですが…。」
役員「ダメだこんなのは。直ぐに止めさせろ。」
私「わ、分かりました。キャンセルするんですね?」
役員「そうだ。」
ほら来た。まただよ。役員Aの気が変わったのだ。もう、何を言っても無駄。私はグッと言葉を飲み込んで、業者の担当者にキャンセルと詫びの電話を入れた…。
これは列記としたパワハラである!
このように役員Aは、最終確認を取って業者に発注した後にもかかわらず、急に気が変わって反故にする出来事が一度や二度じゃなかった。
この前年には、私ではなく上司Bが被った出来事だが、事務所の空調設備を入れ替えろというので業者から見積もりをもらい、役員Aの了承を受けて発注依頼をかけたにも関わらず、その一週間後には、全てキャンセルだと指示が180度変わり、既に取り寄せを進めていた業者に上司Bが頭を下げるというバカみたいな事件もあった。
なぜ、役員Aは、ここまでコロコロと考えが変わるのだろうか?…いや、変るのはいい、考え直すことは誰しもあることだし、その結果、より良い方向に進むのならいい。
しかし、もう社外の業者に発注したというのなら話は別だ。それも一週間も経った後のことである。相手が納得するような理由はなく、ただただ、役員Aの考え方(=気分)が変わったというだけ…。非常識なことこの上なく、会社として実に恥ずかしかった。
私は、常にそういうリスクを抱えたなかで、役員Aの下で仕事をしなければならなかった。これはパワハラの6類型のひとつ「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害」に当てはまると思う。
壊れたドアを直すとかボイラーを入れ替えるといった案件ではなく、今回のようなショーケースのリニューアルや、販促ポスターの刷新など、出来上がりのスタイルが多種多様になるもの、完成形がそれこそ無限にあるような抽象的なものについて、役員Aは、自分が100%気に入ったものしか認めない性格だった。
だから間に入る私などは常に大変だったのだが、それはいい。感性が必要な場面では、それはとても大事なことである。問題は、その”気に入り”が、発注後であろうと何であろうと、数日で変ってしまうことだった。作家とか芸術家とかの、そういう作品作りならまだ分かるが、そんな高尚なレベルの話ではない。
その後、そのショーケースはどうなったのか?
…2022年10月現在も、まだ古いままだ。一体どうなっているんだと思う。